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SNC材(ニッケルクロム鋼)のそれぞれの種類と特徴、加工方法まで解説!
2025/03/21
- 長寿命化
- 加工

目次
SNC材とは?
SNC材(ニッケルクロム鋼)は、高強度・高耐久性を持つ合金鋼の一種であり、自動車部品や産業機械部品など、高負荷がかかる部品の製造に適しています。「SNC」とは「Steel Nickel Chromium」の略称で、鉄(Steel)にニッケル(Nickel)とクロム(Chromium)を添加したことを示します。
この材料の大きな特徴は、高強度・耐摩耗性・耐食性に優れ、熱処理によってさらに特性を向上させることが可能な点にあります。特に、熱処理による硬度の調整が容易であり、さまざまな用途に最適な特性を引き出せるのがSNC材の魅力です。
SNC材の種類と特性
SNC材(ニッケルクロム鋼鋼材)には、いくつかの種類があり、それぞれ異なる特性を持っています。以下に主なSNC材の種類と特性について説明します。
JIS規格では、以下の5種類のSNC材が規定されています
- SNC236
- SNC631
- SNC836
- SNC415
- SNC815
SNC材の特性
SNC材は以下のような優れた特性を持っています:
- 高強度と耐久性: ニッケルとクロムの添加により、鋼材の強度と耐久性が大幅に向上します。
- 優れた耐食性: クロムの含有により、錆びにくく耐食性に優れています。
- 良好な熱処理性: 熱処理によって硬度をさらに向上させることができ、用途に応じた特性を引き出すことが可能です。
- 高い靭性: ニッケルの添加により、材料の粘り強さが向上します。
- 耐摩耗性: SNC材は高い耐摩耗性を持ち、摩擦や摩耗が激しい環境下での使用に適しています。
用途
SNC材は、その優れた特性から以下のような用途に広く使用されています:
- 自動車産業: エンジン部品、ギア、シャフトなど
- 航空機産業: エンジン部品、機体の一部
- 建設機械: 重機やクレーンの部品
- 一般機械部品: ボルト、ナット、自転車のフレームなど
SNC材は、高強度、耐久性、耐食性を兼ね備えた合金鋼であり、様々な産業で重要な役割を果たしています。その優れた特性により、高負荷や厳しい環境下で使用される部品に適しており、現代の工業製品に欠かせない材料となっています。
SNC236
- ニッケル含有量: 1.00~1.50%
- クロム含有量: 0.50~0.90%
- 炭素含有量: 0.32~0.40%
SNC236は、これらの中で最もニッケル含有量が低い鋼種です。強靭鋼に相当し、摩耗への耐性が要求される部品に使用されます。
SNC631
- ニッケル含有量: 2.50~3.00%
- クロム含有量: 0.60~1.00%
- 炭素含有量: 0.27~0.35%
- 降伏点: 685 N/mm²以上
- 引張強さ: 830 N/mm²以上
- 硬度(HBW): 248~302
SNC631は中程度のニッケル含有量を持ち、優れた機械的性質を示します。強靭鋼に相当し、クランクシャフトやギアなどの用途に適しています。
SNC836
- ニッケル含有量: 3.00~3.50%
- クロム含有量: 0.60~1.00%
- 炭素含有量: 0.32~0.40%
- 降伏点: 785 N/mm²以上
- 引張強さ: 930 N/mm²以上
- 硬度(HBW): 269~321
SNC836は、これらの中で最も高いニッケル含有量を持ち、機械的性質が最も優れています。高強度と高靭性を兼ね備え、シャフトや歯車などの重要部品に使用されます。
SNC415
- ニッケル含有量: 2.00~2.50%
- クロム含有量: 0.20~0.50%
- 炭素含有量: 0.12~0.18%
- 引張強さ: 780 N/mm²以上
- 硬度(HBW): 235~341
SNC415は肌焼用のニッケルクロム鋼で、比較的低い炭素含有量が特徴です。クロム由来の酸化膜の働きを強化する作用を持つニッケルを含有しています。
SNC815
- ニッケル含有量: 3.00~3.50%
- クロム含有量: 0.60~1.00%
- 炭素含有量: 0.12~0.18%
- 引張強さ: 980 N/mm²以上
- 硬度(HBW): 285~388
SNC815は、これらの中で最も高い引張強さと硬度範囲を持つ肌焼き用の素材です。高いニッケル含有量により、クロムの効果が強化され、優れた耐摩耗性と耐食性を示します。
SNC材の比較
- ニッケル含有量: SNC836 = SNC815 > SNC631 > SNC415 > SNC236
- 強度: SNC815 > SNC836 > SNC631 > SNC415 > SNC236
- 硬度: SNC815 > SNC836 > SNC631 > SNC415 > SNC236
- 炭素含有量: SNC236 = SNC836 > SNC631 > SNC415 = SNC815
これらのSNC材は、それぞれの特性に応じて、自動車、航空機、建設機械などの産業で重要な役割を果たしています。用途や要求される性能に応じて適切な鋼種を選択することが重要です。
SNC材 | ニッケル(%) | クロム(%) | 炭素(%) | 強度・硬度の特徴 | 主な用途 |
SNC236 | 1.00~1.50 | 0.50~0.90 | 0.32~0.40 | 摩耗耐性が高い | シャフト、ギア、ボルト |
SNC631 | 2.50~3.00 | 0.60~1.00 | 0.27~0.35 | 中強度、高靭性 | クランクシャフト、ギア |
SNC836 | 3.00~3.50 | 0.60~1.00 | 0.32~0.40 | 高強度、高耐摩耗性 | 高負荷のシャフト、歯車 |
SNC415 | 2.00~2.50 | 0.20~0.50 | 0.12~0.18 | 肌焼用、低炭素で靭性あり | トランスミッション部品 |
SNC815 | 3.00~3.50 | 0.60~1.00 | 0.12~0.18 | 最高強度・耐摩耗性 | 高耐久ギア、軸受 |
SNC材の加工性
SNC材は高強度・高耐摩耗性を持つ一方で、加工性にも注意が必要です。
切削加工
- 一般的な炭素鋼に比べると硬度が高いため、超硬工具や**コーティング工具(TiN、AlTiN)**の使用が推奨されます。
- 切削速度を抑え、低速高トルクでの加工が適しています。
焼入れ・焼戻し後の加工
- SNC材は熱処理後に硬度が増すため、仕上げ加工では研削加工が推奨されます。
- 歯車やシャフトの研磨加工では、CBN砥石を使用することで高精度な仕上げが可能です。
SNC材の溶接性
- 高強度な合金鋼のため、溶接時には予熱・後熱処理を行うことで、溶接部の割れを防ぐ必要があります。
- 特にSNC415、SNC815は低炭素のため溶接適性が比較的高いですが、適切な管理が求められます。
SNC材は高強度・高靭性を備えた合金鋼であり、加工には一定の困難を伴います。しかし、適切な工具選定や加工条件の調整、必要に応じた熱処理を施すことで、効率的な加工が可能となります。用途に応じた最適な加工方法を選択することが、SNC材を効果的に活用するための鍵となります。
SNC材の強度をさらに向上させるため、以下のような表面処理が有効です。
- 高周波焼入れ
- 表面硬度を向上させ、摩耗耐性を強化
- SNC631やSNC836のシャフト・ギアに適用される
- 窒化処理
- 耐摩耗性・耐食性を強化し、長寿命化を実現
- SNC415やSNC815のトランスミッション部品に有効
- PVD・CVDコーティング
- 低摩擦化による耐摩耗性向上
- TiNコーティングなどを施すことで寿命延長が可能
適切な表面処理を施すことで、SNC材の特性を最大限に活かし、長期間の使用が可能になります。
SNC材の選定ポイント
SNC材を選定する際には、以下のポイントを考慮する必要があります。
- 使用環境に応じた強度・耐摩耗性のバランス
- コストパフォーマンスを考慮した材質選び
- 適切な表面処理を組み合わせることで長寿命化を図る
例えば、高負荷がかかる部品にはSNC836やSNC815を選び、軽量化を優先するならSNC415を選択するなど、用途に応じた最適な材質を選ぶことが重要です。
当社だからこそできるSNC材の加工・長寿命化提案
当社は、SNC材(ニッケルクロム鋼)の加工において、高い技術力と幅広い対応力を持つことが強みです。小径から大径までの多様な部品加工や、溶接や表面処理技術までもワンストップ対応しており、SNC材特有の特性を最大限に引き出す製品を提供しています。以下に、当社が選ばれる理由を具体的にご紹介します。
小径から大径まで、多様なSnC材部品の旋盤加工に対応
当社では、硬度が高く加工が難しいSNC材においても、旋盤加工を中心とした精密な部品加工が可能です。当社にご相談いただくことが多いのは、ローラーやギヤシャフト、シリンダー、ピンなどの丸物加工品です。φ5の小さいピンからφ100のピンまで、長さも様々な丸物製品に対応しております。
当社が最も得意とするのは、手にのるくらいのサイズがメインです。特にΦ300~600までの、馬力がない旋盤では削ることができないような、クレーンを用いて機械にセットする必要がある、やや取り回しがしづらいような中型丸物部品について、多くのお客様からご相談をいただいております。協力会社の加工ネットワークも駆使することで、最大φ900までの比較的大径な丸物加工まで対応可能です。
SNC材への表面処理による長寿命化提案
SNC材への表面処理について、当社では研磨や硬質クロムめっき、調質処理、高周波焼入れ、さらに浸炭焼入れまで幅広く対応しております。特にSNC材への浸炭焼入れは、最も耐摩耗性や長寿命化を実現することができ、積極的にお客様にご提案を行っております。
SNC材への材料変更による長寿命化提案
当社では金属コーディネーターとして、お客様のご要望に応じた最適な金属種類のご提案も行っております。特に多いご相談が耐摩耗による長寿命化で、S45CからSCM材へのご提案などが多くなっています。
詳細は下記のVA/VE技術提案事例をご覧ください。
S45C⇒SNC415の浸炭焼入れ提案による長寿命化&コストダウンの実現

SNC材の加工事例
設備用段付きシャフト

こちらは線材圧延時に使用される設備用段付きシャフトです。サイズはΦ38×127mmで、材質はSNC415を使用しております。加工工程としては、まず旋盤加工を行い段付き形状を作り、その後マシニング、浸炭焼入れ、そして研磨加工を実施しています。
本製品は、精度が求められるため、焼入後に研磨加工を行っています。お客様からの要望で、硬度を増したい一方で材料費も抑えたいとのことでした。そこで当社から詳細ヒアリングをさせていただき、時間がかかってもいいとのことだったため、材質はSNC系を使用し、焼入処理は浸炭焼入れをご提案いたしました。これにより硬度向上による長寿命化と交換頻度の低減につながり、結果としてコストダウンにもつなげることができました。
SNC材のことなら、平野鉄工にお任せください!
ローラー・シャフト旋盤加工 長寿命化ナビを運営する平野鉄工株式会社は、丸物加工品を専門とし、耐摩耗性や高強度が求められる製品の長寿命化と機能向上を実現する技術提案に自信を持っています。当社の金属コーディネーターが丁寧なヒアリングを行い、焼入れや表面処理の最適な選定を行うだけでなく、形状変更や機構改善などの斬新な提案も行い、お客様にとって最適な解決策を提供します。
対応可能な製品は、直径φ5の小さいピンからφ100のピンまで、長さも様々な丸物製品に対応しております。特にΦ300~600までの、馬力がない旋盤では削ることができないような、クレーンを用いて機械にセットする必要がある、やや取り回しがしづらいような中型丸物部品について、多くのお客様からご相談をいただいております。協力会社の加工ネットワークも駆使することで、最大φ900までの比較的大径な丸物加工まで対応可能です。
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