お役立ち情報
サブゼロ処理とは?
2025/04/21
- 長寿命化

ゲージや金型といった高精度部品において、微細な寸法変化が製品品質を大きく左右します。焼入れにより鋼材は硬度を得られますが、同時に「見えない変化」が内部に潜んでいます。それが「残留オーステナイト(γR)」です。
このγRの存在が、寸法の経年変化や耐摩耗性の低下を引き起こす要因となるため、鋼材の真の安定性を得るには、焼入れ後に「もう一段階の処理」が必要です。それが「サブゼロ処理」です。本コラムでは、サブゼロ処理の仕組みとその効果、導入の意義を専門的に解説します。
目次
ゲージとは?
ゲージとは、部品や製品の寸法・形状・位置関係などを正確に測定・判定するための精密測定工具です。ノギスやマイクロメータのように数値を読み取るタイプとは異なり、ゲージは「通る/通らない」「当たる/当たらない」といった判定によって合否を判断する“比較測定”の代表的な工具です。
プラグゲージ、スナップゲージ、リングゲージ、ブロックゲージなど種類は多岐にわたり、生産現場では量産部品の品質管理や検査工程に欠かせない存在です。高精度な寸法管理を実現するためには、ゲージ自体の寸法精度・耐摩耗性・安定性が非常に重要であり、それらは使用される材料と熱処理方法に大きく依存します。
サブゼロ処理とは何か?
サブゼロ処理とは、焼入れした鋼材を0℃以下の温度まで冷却する特殊な熱処理工程の一つで、「零下処理」「深冷処理」とも呼ばれます。ドライアイス(約-78℃)や炭酸ガス、液体窒素(-196℃)などを使用し、鋼材内部の残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させることを目的としています。
サブゼロ処理は一般的に-100℃程度で行われますが、より深く冷却する「超サブゼロ処理(-130℃以下)」も一部用途で活用されます。処理のタイミングとしては、焼入れ直後〜焼戻し前の段階で施されるのが一般的です。
残留オーステナイト(γR)の正体と影響
焼入れによって、鋼材はオーステナイト相からマルテンサイト相に変態します。しかし、炭素量が多く、またCr(クロム)やMo(モリブデン)を多く含む鋼材では、冷却中に一部のオーステナイトが変態せずに残ることがあります。この未変態組織が「残留オーステナイト(γR)」です。
Ms点(マルテンサイト変態開始温度)とMf点(変態終了温度)が低い鋼材では、常温での冷却が不十分となり、γRが残留します。たとえば、SKD11などの高合金鋼は、室温での焼入れ後にも多くのγRが存在しやすい性質を持っています。
γRは当初、柔軟性や靭性の向上に寄与する利点もありますが、工具鋼や精密部品においては以下のような多くの問題を引き起こします:
- 硬さが不十分で、耐摩耗性が劣る
- 焼入れ焼戻し後の寸法が時間経過で収縮する
- 経年変化によって寸法安定性が失われる
- 研削時の発熱によって割れが発生しやすい
- 磁性が低く、加工時に磁石固定が不安定になる
これらの問題は、部品寿命や製品精度に直結するため、γRの除去または変態は不可欠となります。こうした背景から、特に高精度が求められる現場では、サブゼロ処理が広く採用されているのです。
サブゼロ処理がもたらす具体的効果
サブゼロ処理によって、鋼材内部に残るγRがマルテンサイトへと変態し、以下のような効果が得られます:
- 寸法の安定性が大きく向上し、時間の経過による収縮や変形が抑えられる
- 硬度が回復・増強され、耐摩耗性が向上する
- 硬度が均一化される
- 磁性が安定し、加工や固定時の信頼性が向上する
たとえばSKD11のような鋼材では、焼入れ温度が高すぎると硬度が逆に低下する現象が見られますが、これはγRの増加によるものです。そのため、サブゼロ処理を適用することで、この軟質相をマルテンサイトに転換することで、硬さの回復や寿命の延長につなげることができます。
また、特に処理温度が-100℃程度まで達すると、γRのほとんどがマルテンサイト化するため、機械的・磁気的安定性が著しく向上します。
このように、サブゼロ処理は寸法精度だけでなく、材料全体の物理的性能を底上げする手法として、精密加工業界では欠かせない工程のひとつとなっています。
サブゼロ処理の適用対象と導入のポイント
サブゼロ処理は、特に高精度と耐久性が求められる以下のような製品・部品において、高い効果を発揮します:
- 寸法安定性が要求される精密ゲージ
- 繰り返し使用される金型やパンチ部品
- 切削抵抗の大きい環境で用いる工具
上記のような製品では、加工精度の長期維持や、摩耗・損耗の抑制が品質維持のカギとなります。サブゼロ処理を取り入れることで、焼入れ後の変形や収縮、耐久性の低下といった課題を効果的に抑えることができます。
ただし、サブゼロ処理は強い急冷を伴うため、「サブゼロクラック」と呼ばれる微細な割れが発生するリスクもあります。これを避けるために、焼入れ後に100℃前後の湯戻しを行ってからサブゼロ処理を行うなど、工程の最適化が重要です。
また、設備面でも液体窒素や冷却槽の管理、安全対策といった初期投資や運用体制が求められるため、導入には製品の用途や品質要求、コストバランスを総合的に見極める必要があります。
サブゼロ処理と持続的な品質管理
サブゼロ処理は、硬度や寸法安定性の向上といった即時的な効果に加え、製品の長期的な信頼性を確保する手段として注目されています。
サブゼロ処理によって残留オーステナイトがマルテンサイトに変化することで、経年による寸法変化や物性の低下を抑制できるとされています。これにより、再調整や再測定の頻度が低減され、品質管理の効率化に寄与します。とくに寸法精度の安定性が重視されるゲージや金型、精密測定器具などにおいては、出荷後の信頼性を高めるための有効な処理として知られています。
また、サブゼロ処理は摩耗の進行を抑える効果もあるため、部品の寿命延長や交換頻度の低減が期待できます。これにより、製品の長期使用におけるトータルコストの最適化につながるほか、廃棄物の削減やメンテナンス工数の低減といった環境・運用面でのメリットにもつながります。
このように、サブゼロ処理は単なる熱処理工程の一つとしてだけでなく、製品ライフサイクル全体における品質確保、コスト効率、環境配慮の観点からも、重要な技術として位置付けられています。
当社だからこそ可能な特注ゲージ製作・長寿命化提案
当社では創業以来、当社では自動車業界の部品を中心に生産しており、特にゲージの製造を行っておりました。独自の加工ネットワークであらゆる種類の処理に対応しております。これまでに培ってきた実績やノウハウをもとに、最適な表面処理のご提案を行い、ゲージの長寿命化を実現いたします。
以下に、当社が選ばれる理由を具体的にご紹介します。
耐摩耗性・高強度が必要な製品への長寿命化提案に自信あります!
当社ではローラーやシャフト、シリンダー、ピンなど、消耗が激しい丸物加工品を多く取り扱っており、これらの製品に対する長寿命化を実現する技術提案に自信があります。
創業以来、当社では自動車業界の部品を中心に生産しており、現在は産業機械装置の部品も含めて多品種少量生産を行っております。特に当社にご依頼いただくのは、消耗が激しい丸物加工品が多くなっています。ローラーやシャフトは、なるべく交換をせずに長く使用したいというニーズが強い一方で、精度は高くなければいけないという、要求仕様も多い製品です。当社ではこうした丸物部品に対して、歪みが少なく、高強度・高硬度を実現する焼入れ・表面処理をご提案しております。
一方で当社では、「とにかく硬く、長持ちするようにしたい」というお客様に対して、「あえて消耗しやすくして交換頻度は多くするが、コストを抑える」というご提案も行っております。必要以上に製品の強度や硬度を向上させると、仕上げ加工が困難となり、コストも異常なほど高くなってしまいます。そのため当社では、あえて相手部材より負けさせてコストを抑えるという提案も行っています。
当社では、金属コーディネーターとして丁寧にヒアリングを行い、お客様が本当に必要とする機能を実現するための焼入れ・表面処理を選定しております。焼入れや表面処理については、独自の加工ネットワークであらゆる種類の処理に対応しております。さらに長寿命化だけでなく、機能を改善するための形状変更や機構改善など、型にはまらない斬新なVE・VA提案を幅広い範囲で行っております。耐摩耗性や高強度が必要な丸物製品は、金属コーディネーターに一度ご相談いただければ、当社から最適な技術提案をいたします。
小径から大径まで、様々なゲージの旋盤加工に対応
当社にご相談いただくことが多いのは、ローラーやギヤシャフト、シリンダー、ピンなどの丸物加工品です。φ5の小さいピンからφ100のピンまで、長さも様々な丸物製品に対応しております。当社が最も得意とするのは、手にのるくらいのサイズがメインです。特にΦ300~600までの、馬力がない旋盤では削ることができないような、クレーンを用いて機械にセットする必要がある、やや取り回しがしづらいような中型丸物部品について、多くのお客様からご相談をいただいております。協力会社の加工ネットワークも駆使することで、最大φ900までの比較的大径な丸物加工まで対応可能です。
さらに当社では、シャフトなどの高精度な丸物部品のご相談も多くいただいておりますが、このような製品については円筒研削(円筒研磨)による仕上げ加工まで対応しております。耐摩耗や強度が求められる丸物製品は、回転運動しながら使用される製品のため、寸法公差や真円度など、高い精度が求められます。こうした精度が必要なシャフトについても、安心して当社にお任せいただけます。
※長さ、形状、材質など各種条件によりますが、軸物の寸法公差はh7級にて基本的には対応しております。
単品、小ロットでも短納期・特急対応
当社にご依頼いただくことが多いのは、耐摩耗・高強度で長寿命化が求められる製品です。このような製品は、生産ラインや機械装置においても重要な機構部品であることが多く、万が一修理やトラブルになった際は、すぐに必要となる製品であることが多いです。そして緊急時には、個数は200個のようなロットではなく、少数や単品での発注が多くなります。しかし単品・小ロットでの依頼は、小回り対応や緊急対応が求められるため、対応不可とお断りされるケースも多くなります。
当社では、このような他社でお断りされた単品・小ロットの製品の加工依頼を多くいただいております。特に当社の特急対応には、既存のお客様からは価値を感じていただいているポイントです。いますぐ製品を加工してほしい!という場合も、まずは金属コーディネーターの当社にご相談ください。
既存製品のコスト削減についても、製品の使用目的や環境をお伺いした上で、最適な部品設計をいたしますので、コストダウンについてもお任せください!

ゲージの加工事例
続いて、実際に当社で製作したゲージの加工事例をご紹介いたします。
テーパーリングゲージ

こちらはテーパーリングゲージです。サイズはΦ92×90mmで、材質はSKS3を使用しております。加工工程としては、旋盤加工、マシニング加工、サブゼロ処理、防錆黒染め、研磨、刻印を行っています。
本製品は、測定用途に使用されるテーパーリングゲージです。何度も使用されることを想定し、耐摩耗性を向上させるためにサブゼロ処理を施しました。また、防錆対策として黒染め処理を実施し、長期間の使用でも性能を維持できる仕様としています。
テーパープラグゲージ

本製品は、Vプーリーから異音がするというお問い合わせから当社にご相談いただきました。原因を調べると、他社製のテーパーとプーリーが合っていないことが原因と判明しました。そのため当社からは、①プーリーとテーパーを両方作る、または②ゲージを作る、の2つ方法をご提案いたしました。その結果、今回はVプーリーとシャフトの図面をもとにテーパープラグゲージを製作しました。
本製品は測定用として使用され、何度も出し入れを行う用途のため、耐摩耗性が求められました。そのため、焼入れ・焼き戻しに加え、サブゼロ処理を施し、長寿命化を実現しています。

ゲージのことなら、平野鉄工にお任せください!
ローラー・シャフト旋盤加工 長寿命化ナビを運営する平野鉄工株式会社は、丸物加工品を専門とし、耐摩耗性や高強度が求められる製品の長寿命化と機能向上を実現する技術提案に自信を持っています。当社の金属コーディネーターが丁寧なヒアリングを行い、焼入れや表面処理の最適な選定を行うだけでなく、形状変更や機構改善などの斬新な提案も行い、お客様にとって最適な解決策を提供します。
対応可能な製品は、直径φ5の小さいピンからφ100のピンまで、長さも様々な丸物製品に対応しております。特にΦ300~600までの、馬力がない旋盤では削ることができないような、クレーンを用いて機械にセットする必要がある、やや取り回しがしづらいような中型丸物部品について、多くのお客様からご相談をいただいております。協力会社の加工ネットワークも駆使することで、最大φ900までの比較的大径な丸物加工まで対応可能です。
ローラー・シャフト旋盤加工 長寿命化ナビでは、多様なニーズに応える高い技術力と柔軟な対応力を持ち、お客様の製品開発を強力に支援します。丸物加工品の製造において、耐久性や精度を求めるなら、ぜひローラー・シャフト旋盤加工 長寿命化ナビにお任せください。お客様のご相談をお待ちしておりますので、どうぞお気軽にお声がけください。

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