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ステライトとは?特徴・施工方法から、摩耗部品を再生する「削り→肉盛り→削り」まで解説!

2026/08/13

  • 長寿命化
  • 表面処理
ステライトとは?特徴・施工方法から、摩耗部品を再生する「削り→肉盛り→削り」まで解説!

ステライトとは何か、グレード別の硬度と使い分け、肉盛溶接と溶射の違いを解説。さらに摩耗した部品を「削り→肉盛り→削り」で再生する工程と、硬い盛りを削る際の注意点まで、旋盤加工の現場からご説明します。

ローラーやシャフトの摩耗が止まらない。新品を手配すれば数ヶ月待ちで、その間ラインは動かせない。設備保全や生産技術のご担当者から、当社にはこうしたご相談が届きます。先日も「靭性や強度を損なうことなく、部分的でよいので耐摩耗性を向上させる方法はないものでしょうか」というご質問をいただきました。

その答えの一つが、ステライトに代表される耐摩耗合金の肉盛り・溶射です。ただし、この材料には「盛るのは難しくないが、盛った後に削れない」という、あまり語られていない壁があります。本記事では、ステライトの基本から施工方法の使い分け、そして摩耗した部品を「削り→肉盛り→削り」で再生する工程までを、実際に削っている立場からご説明します。最後に、当社がどのようにこの工程をお手伝いできるかもお伝えします。

ステライトとは?

【定義】 ステライトとは、コバルトを主成分に、クロムを約30%、タングステンを4〜15%程度含む耐摩耗合金に付けられた商標です。

耐摩耗性・耐熱性・耐食性という、通常はどれかを犠牲にしなければ成り立たない3つの性質を、1つの材料で同時に満たします。融点が高く、磨いた面は摩擦係数が小さいという性質も持っています。バルブシート、ガスタービンブレード、産業用バルブ、パルプ用の粉砕刃といった、止まると被害の大きい部位に使われてきた材料です。

ステライトの基本組成と誕生の背景

ステライトは、100年以上の使用実績を持つ材料です。

発明したのはアメリカのエルウッド・ヘインズで、1900年頃に開発され、1907年12月に特許を取得しています。製造が始まったのは1912年です。国内では三菱マテリアル株式会社桶川製作所が「三菱ステライト」の商標を保有しています。

「ステライト」は本来は商標であり、材料の一般名称ではありません。図面や仕様書で「ステライト相当」と指定されている場合、実際にはコバルト基の耐摩耗合金全般を指していることがあります。ここは発注前に確認しておいたほうがよい点です。

耐摩耗・耐熱・耐食を同時に満たす理由

3つの性質が両立するのは、組織の作られ方に理由があります。

コバルトを母地とし、そこにクロムとタングステンが炭化物として分散します。硬い炭化物が摩耗を受け止め、母地のコバルトとクロムが酸化と腐食を防ぐ。役割分担がはっきりしているため、高温になっても硬さが落ちにくいという特性が生まれます。焼入れ鋼のように、温度が上がると軟化して一気に摩耗が進む、という挙動を取りません。

当社は「材料選定」「表面処理」「加工方法」の3要素で部品を長寿命化するという考え方で、お客様のご相談に対応しています。ステライトはこのうち表面処理の選択肢の一つで、硬さと耐熱性を同時に求められる場面で候補に挙がる材料です。

ただし、すべての摩耗トラブルにステライトが最適とは限りません。後述しますが、価格も加工コストも高い材料です。摩耗の原因を特定しないまま「とりあえず硬い材料を盛る」という判断は、当社としてはおすすめしていません。

>>金属部品の表面処理の種類と選び方【内部リンク:未作成】

ステライトの種類とグレード別の使い分け

【ポイント】 ステライトはグレードによって硬さがHRC30台から50台まで分かれます。硬さだけで選ぶと、かえって早く壊れます。

代表的なグレードと硬さは次のとおりです。

グレード硬さ(HRC)特徴主な用途
Stellite 152〜58最高硬度。耐摩耗最優先だが靭性が低く、衝撃には向かない強アブレシブ摩耗部
Stellite 638〜43汎用グレード。耐摩耗・耐食・耐熱のバランス型バルブシート、一般的な摺動部
Stellite 1244〜48タングステン量が多く、アブレシブ摩耗に強い中間グレード粉体・スラリー接触部
Stellite 2132〜38低炭素。靭性と耐食性が高い医療インプラント、耐食用途
Stellite 3130〜35高温クリープ強度に特化ガスタービン部品

出典:金属データブック《たすいち》

硬さだけで選ぶと失敗する理由

硬さと靭性は、この材料でも反比例します。

Stellite 1はHRC52〜58という硬さを持ちますが、その分だけ脆くなります。衝撃や曲げが繰り返しかかる部位にこのグレードを選ぶと、摩耗する前に欠けます。逆にStellite 21はHRC32〜38と数字だけ見れば物足りませんが、割れにくさが効く場面では確実にこちらが正解です。

当社にご相談いただくお客様も、まさにこの点で悩まれています。実際にいただいたご質問を、そのまま引用します。

「排風機の機能はもとより、靭性や強度を損なうことなく、部分的でよいので耐摩耗性を向上させる方法はないものでしょうか?」

部分的でよいので。 この一言に、摩耗対策の本質が入っていると弊社は考えています。部品全体を硬くする必要はなく、実際に減っている数十ミリの範囲だけが硬ければいい。表面処理という手段が選ばれるのは、まさにこの理由からです。

なお、グレードの選定は摩耗の種類(すり減りなのか、叩かれているのか、腐食を伴うのか)によって変わります。図面上の指定がない場合は、実機の使用条件を伺ったうえでご提案しています。

>>SUJ2の特徴と加工のポイントから熱処理まで徹底解説!【内部リンク:column/1109】

肉盛溶接と溶射、どちらを選ぶべきか

【ポイント】 判断を分けるのは、母材にどれだけ熱を入れるかです。

同じ「ステライトを付ける」でも、肉盛溶接と溶射では起きていることが違います。

母材への熱の入り方が決定的に違う

肉盛溶接は、母材の表面を溶かしながらステライトを溶着させる方法です。母材と溶着金属が溶け合うため結合は強固ですが、その代わりに母材の成分が混ざり込みます。これを希釈と呼び、盛った層の性能が設計値より落ちる原因になります。

溶射は、材料を溶融または半溶融の状態にして表面へ吹き付けます。母材そのものを大きく溶かすわけではないため、熱影響を抑えられます。溶接では母材をおよそ500℃以上まで上げるのに対し、溶射では基材の温度が低いまま処理できるとされています。

盛れる厚みと、選び方の早見表

厚みの上限も、両者ではひと桁違います。

項目肉盛溶接溶射
盛れる厚み数十mmまで可能最高でも数mm程度
母材温度約500℃以上低温のまま処理可能
結合形態冶金的結合(希釈あり)機械的結合が主体
熱による歪み大きい小さい
向く場面大きく減った部位の肉付け、強度が要る補修薄く硬い層を付けたい、歪ませたくない

近年はレーザークラッディングという選択肢もあります。PTA肉盛と比べて溶け込み深さが約1/5に抑えられ、Stellite 6の複合クラッド層でCoの希釈が7.6%、Crが2.1%、Wが6.7%という測定値が報告されています。希釈を嫌う用途では有力な工法です。

当社は溶射・肉盛りそのものは協力会社と連携して対応しており、ステライトを含む肉盛り品の加工を手がけてきました。窓口を当社が一本化することで、削りの都合を織り込んだうえで盛り方を決められます。ただし、工法によって対応できる協力会社が変わるため、部品の形状と寸法をお聞きしてからのご案内となります。

>>硬質クロムめっきの特性を活かすには?【内部リンク:column/1105】

>>高周波焼入れとは?【内部リンク:column/1106】

ステライトが「削れない」と言われる理由

【ポイント】 ステライトの本当の難所は、盛るところではなく、盛った後にあります。

検索で「ステライト 削れない」というキーワードが出てくるのには、はっきりした理由があります。

超硬工具では歯が立たない硬さ

焼結品や鋳造品のステライトはHRC40を超えます。この硬さになると、ハイス工具はもちろん、通常の超硬工具でも加工が非常に困難になります。実務ではCBN工具による低速切削、あるいは研削加工や放電加工が基本となり、切削速度は10〜20m/min程度という報告もあります。

層の境目で刃先が折れる

ここからは、実際に削った当社の経験です。

ステライトを盛ったローラーを旋盤で加工した際、最も苦労したのは盛り層の境目でした。母材から盛り層へ刃物が入る瞬間、硬さが急に変わるためチップの刃先が折れます。1本の加工で何枚もチップを交換することになり、工具費が積み上がっていきました。ステライト盛り品の加工が高くなる理由は、材料代よりもむしろここにあります。

見積りを見て「加工賃が高い」と感じられるお客様は多いのですが、内訳の大半はチップ代と、それを見越した加工時間です。この点は最初にご説明するようにしています。

盛った後の歪みという、もう一つの壁

硬さの問題を越えても、次に歪みが待っています。

肉盛りは母材に熱を入れる工程です。熱が入れば材料は動きます。当社では溶接を伴う加工品について、溶接後にあらためて旋盤加工を行って精度を確保する工程を組んでいます。溶接によって土台部に重量差が生じた部品では、旋盤加工時に2か所へ重しを取り付けて振れを抑えたこともありました。

盛る前と盛った後で、部品は別物になっている。だからこそ、削りを前提にした工程設計が要ると弊社は考えています。ただし、部品の形状や盛り厚によって歪み方は変わるため、すべてのケースで同じ手順が通用するわけではありません。

>>S45Cの特徴と加工方法とは?【内部リンク:column/1103】

摩耗した部品を捨てない、削り→肉盛り→削りという選択肢

【ポイント】 減った部品は、寸法を戻せば使えます。捨てる前に、再生できるかどうかを判断する余地があります。

摩耗した部品への対応は、新品への交換だけではありません。既存の部品を活かす道があります。

工程の全体像と、各段階の役割

再生は3つの工程で成り立っています。

まず下地削りで、摩耗した表面や劣化した層を除去し、盛るための形状を作ります。次に肉盛り・溶射で、必要な材料を必要な厚みだけ付けます。最後に仕上げ削りで、元の寸法と面粗さに戻します。工程の名前だけ見れば単純ですが、それぞれが前後の工程に強く依存します。

下地の削り方が、仕上がりの大半を決める

この工程で最も判断が要るのは、最初の下地削りです。

当社がピストンロッドの銅溶射を手がけた際、下地の形状で対処した問題があります。溶射の工程で、母材の鉄が銅の部分へ巻き上がってくる「巻き返し現象」が起きます。これが製品の外に出てしまうと不良になる。そこで、あらかじめ先端部の鉄を削ってRをつけ、その上から銅を盛る形状にしました。盛る前の削りで、盛った後の不良を防いだかたちです。

盛る側だけを見ていると、こうした判断は出てきません。削る側が工程の最初に関わることの意味は、ここにあると弊社は考えています。

再生できる部品、できない部品

すべての摩耗部品が再生に向くわけではありません。当社では、次のような場合に再生をご提案しています。

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  • 摩耗量が比較的軽度である:目安としてΦ2.0mm以下の摩耗
  • メーカーが撤退して廃番になっている:新規の設計・図面調達が困難な部品
  • 強い衝撃がかからない箇所である:溶射による再生層は衝撃に弱いという特性があるため

逆に、高荷重・高温・腐食といった過酷な環境にあり、現行の材料仕様のまま再生してもすぐに再摩耗を繰り返すと判断される場合は、再生ではなく材料変更や熱処理仕様を引き上げた新規製作をご提案します。メンテナンス工数とライン停止の損失が積み上がるより、そのほうが結果的に安く済むためです。

>>シャフト摩耗の原因と対策|シャフトをコストメリット良く活用するためには?【内部リンク:column/976】

>>ローラーシャフトとは?用途から選定方法、耐久性向上まで【内部リンク:column/926】

削りから逆算する、当社のステライト・溶射対応

【ポイント】 当社は盛る会社ではなく、削る会社です。だからこそ盛り方に口を出します。

平野鉄工株式会社は1982年の設立以来、ローラー・シャフトを中心とした丸物の旋盤加工を手がけてきました。ステライトをはじめとする肉盛り・溶射の再生案件について、当社が担っているのは次の3点です。

【下地設計】盛る前提で図面を読み直す

お預かりした摩耗品を、まず「どこまで削り落とすか」から検討します。

摩耗部を落としすぎれば盛り量が増えて熱と歪みのリスクが上がり、落とし足りなければ劣化層が残って剥離の原因になります。前述の巻き返し現象のように、盛り方の都合で下地の形状そのものを変えることもあります。図面どおりに削るのではなく、盛った後の姿から逆算して削る。ここが最初の仕事です。

【工程管理】協力会社との間を当社が持つ

溶射・肉盛りの施工は、工法に応じた協力会社と連携して対応しています。

お客様から見れば、窓口は当社1社です。削りと盛りで会社が分かれると、寸法の食い違いや責任の所在が曖昧になりがちですが、当社が工程全体を持つことでその調整をお客様に発生させません。丸物部品の対応範囲は、協力会社のネットワークを活用した場合で最小Φ5mmから最大Φ900mm、長さは2,000mm程度までの実績があります。

【仕上げ】硬い盛りを削り切る条件出し

盛った層を規定の寸法と面粗さに仕上げるのが最後の工程です。

層の境目でチップが折れる問題は前述のとおりで、工具の選定と切削条件で対処します。歪みが出た部品については、旋盤で振れを取り直したうえで仕上げます。硬い材料であるほど、この段階の段取りが仕上がりを左右します。

ただし、部品の形状や摩耗の状態によっては、再生よりも新規製作のほうが適切と判断することもあります。当社は再生を売りたいのではなく、お客様の設備が長く動くことを目的にご提案しています。

>>浸炭焼入れとは?効果、長寿命化への応用まで徹底解説!【内部リンク:column/1102】

ローラー・シャフトの再生・長寿命化のご提案事例

当社が実際にご提案した事例を2件ご紹介します。

送風機シャフトの偏摩耗に対する3案比較

1年足らずで軸受け接触面が偏摩耗する、というご相談でした。

対象はS45C製の送風機(排風機)シャフトで、寸法はΦ50mm×長さ800mm。軸受けに接する面が、1年経たずに約1mm偏摩耗するという状態でした。当社からは、目的の異なる3案を並べてご提示しました。

提案内容ご提示金額狙い
高周波焼入れ+研磨18万円新品を長寿命仕様で作り直す
ステンレス溶射23万円再生可能な仕様にする
超硬溶射28万円耐摩耗性を最大化しつつ再生可能にする

初期費用だけを見れば高周波焼入れが最も安く済みます。それでも溶射仕様をご提案したのは、再び摩耗した際に「削り→肉盛り→削り」で繰り返し再生できるためです。2回目以降のメンテナンス費用が抑えられる点をご説明したところ、お客様からは「安い」とのご評価をいただきました。

単価が3倍になっても、寿命が3倍以上に伸びればトータルコストは下がります。当社が費用対効果をご説明する際は、この考え方を基準にしています。ただし、実際の寿命は使用環境によって変わるため、初回は試験的に1本から、というご相談の受け方もしています。

ピストンロッドの三層処理

新規製作で、母材・溶射層・めっき層を組み合わせた事例です。

S45CとALBC(青銅鋳物)を用いたΦ80×301のピストンロッドに、銅溶射と硬質クロムメッキを施しました。仕上げ公差はΦ80部が-0.036〜-0.090mm、Φ50部が-0.030〜-0.070mmです。溶射層を挟んだ状態でこの公差に入れるには、前述の巻き返し現象への対処を含め、盛る前の形状づくりが必要でした。

>>SCM材(クロムモリブデン鋼鋼材)の特徴と加工方法とは?【内部リンク:column/931】

ステライト・溶射による部品再生のことなら、平野鉄工にお任せください

ここまでお読みいただいたあなたのように、多くのご担当者が「この部品、また交換か」と思いながら見積りを取られています。

摩耗した部品を捨てるか、直すか。その判断には、盛る側と削る側の両方の事情を知っている必要があります。硬い材料を盛れば長持ちしますが、盛れば削れなくなる。この当たり前のトレードオフを、工程が分かれているために誰も引き受けられていない現場を、当社はいくつも見てきました。

平野鉄工は1982年の設立以来、「材料選定」「表面処理」「加工方法」の3要素で部品を強く、硬く、長寿命にするご提案を続けてきました。丸物部品はΦ5mmからΦ900mm、長さ2,000mm程度まで対応しています。

摩耗した部品の現物と、使用環境をお聞かせください。再生すべきか、新規製作すべきか、当社の考えをお伝えします。図面がなくても、現物からのご相談で構いません。

→ お問い合わせはこちら/→ 加工事例一覧を見る

よくある質問

Q. ステライトの硬さはどれくらいですか?

A. グレードにより異なり、Stellite 21のHRC32〜38からStellite 1のHRC52〜58まで幅があります。

Q. 肉盛溶接と溶射は何が違うのですか?

A. 母材への熱の入り方が違います。溶接は数十mm盛れますが歪みやすく、溶射は数mmまでで低熱です。

Q. 摩耗した部品はどこまでなら再生できますか?

A. 摩耗量Φ2.0mm以下が目安です。強い衝撃がかかる箇所は、再生より新規製作をご提案しています。

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