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SKH51(ハイス鋼)とは?特徴・熱処理・加工方法から「SKH51を選ぶべき部品」の見極め方まで解説!

2026/08/13

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SKH51(ハイス鋼)とは?特徴・熱処理・加工方法から「SKH51を選ぶべき部品」の見極め方まで解説!

SKH51とは?JIS G 4403が定める化学成分・焼入れ1,220℃/焼戻し560℃の熱処理条件・800HVという硬さを正確に解説。SKD11やSUJ2との使い分け、加工上の注意点、材質を上げる前に検討したい熱処理・表面処理まで、丸物加工の現場からご紹介します。

部品が想定より早く摩耗してしまい、「もっと硬い材料に上げるしかない」とSKH51を検討し始めた。けれども、材料費がどこまで跳ね上がるのか、焼入れ後にどこまで削れるのか、納期がどれだけ延びるのかが見えない――こうしたご相談を、私たち平野鉄工では材質選定の段階でよくいただきます。

SKH51は800HV(およそHRC64)という硬さを持ち、500〜600℃の高温でも硬さが落ちにくい鋼材です。一方で、焼なまし状態でも262HBWと硬く、焼入れには1,220℃の真空炉が必要で、材料単価はS45Cの数倍から十数倍になります。硬さだけを見て選ぶと、加工と手配の両面で想定外が起きやすい材料でもあります。

本記事では、JIS G 4403が定めるSKH51の化学成分・熱処理条件・硬さを正確に整理したうえで、SKD11やSUJ2との使い分け、加工上の注意点、そして「材質を上げる前に検討したい熱処理・表面処理という選択肢」までをご説明します。最後に、材料手配から焼入れ後の仕上げまでを一つの窓口でまとめる弊社の対応についてもご紹介します。

SKH51(ハイス鋼)とは?

【定義】 SKH51とは、JIS G 4403で規定されたモリブデン系の高速度工具鋼鋼材で、高温にさらされても硬さが落ちにくい性質をもった鋼材です。

SKH51は「ハイス鋼」の代表格です

まず、SKH51という記号が何を指しているのかを整理します。

SKHは高速度工具鋼鋼材の記号で、一般には「ハイス」「ハイス鋼」と呼ばれます。語源はHigh Speed Steel、つまり高速で切削しても切れ味が落ちない鋼材、という意味です。ドリルやエンドミル、タップといった切削工具の材料として発達してきた経緯があり、現在も工具の分野では主役の一つです。

JIS G 4403には14の鋼種が規定されていますが、そのなかで最も広く流通しているのがSKH51です。丸棒や角材といった一般的な形状であれば市中在庫を持つ鋼材商社も多く、SKH材のなかでは入手しやすい部類に入ります。工具以外にも、パンチやダイなどの金型部品、位置決めピン、ガイド部品といった「摩耗が寿命を決める部品」に採用されています。

私たち平野鉄工でも、位置決め用のロケーションピンをSKH51で製作した実績があります。摩耗して寸法が狂うと段取りそのものが成立しなくなる部品なので、材質のグレードを上げる判断がされたケースです。

>>ゲージに使われる工具鋼の選び方

タングステン系とモリブデン系――SKH51はモリブデン系

SKH材を理解するうえで最初に押さえたいのが、この2系統の分け方です。

JIS G 4403は高速度工具鋼鋼材を、タングステン系(SKH2、SKH3、SKH4、SKH10)とモリブデン系(SKH50番台)の2つに分類しています。SKH51はモリブデン系の代表鋼種で、海外規格ではASTMのM2、DINの1.3343、記号表記ではW6Mo5Cr4V2に相当します。

ここで一つ注意点があります。SKH51の成分を「タングステン18〜20%」と紹介している資料を見かけることがありますが、この数値はタングステン系のSKH2のものです。SKH51のタングステンは5.90〜6.70%で、代わりにモリブデンを4.70〜5.20%含みます。材料手配や見積もりの前提が変わってしまうため、成分値を確認される際はJIS G 4403の規定値をご覧いただくことをおすすめします。

高温でも硬さが落ちにくい、という性質

SKH51が工具の材料として選ばれてきた理由は、この一点に集約されます。

一般的な焼入れ鋼は、焼戻し温度を超える熱が加わると硬さが下がります。SUJ2やS45Cの高周波焼入れ品を200℃を超える環境で使うと寿命が短くなるのは、このためです。SKH51はタングステン・モリブデン・バナジウムの炭化物が高温でも安定しているため、500〜600℃付近まで硬さの低下が小さく抑えられます。この性質は一般に「赤熱硬さ」「高温硬さ」と呼ばれます。

ただし、SKH51がすべての高硬度用途に最適とは限りません。後述しますが、靭性や耐食性、材料費の面では他の鋼種のほうが適している場面もあります。

>>SUJ2の特徴と加工のポイントから熱処理まで徹底解説!

SKH51の化学成分と、JIS G 4403での位置づけ

JIS G 4403:2015が規定するSKH51の化学成分は、次のとおりです。

元素規定値(質量%)
C(炭素)0.80〜0.88
Si(けい素)0.45以下
Mn(マンガン)0.40以下
P(りん)0.030以下
S(硫黄)0.030以下
Cr(クロム)3.80〜4.50
Mo(モリブデン)4.70〜5.20
W(タングステン)5.90〜6.70
V(バナジウム)1.70〜2.10
Co(コバルト)意図的に添加してはならない

出典:JIS G 4403:2015 高速度工具鋼鋼材

それぞれの元素が担っている役割

成分表を眺めるだけでは、SKH51の性格は見えてきません。

炭素0.80〜0.88%は、焼入れによってマルテンサイトを作り、同時に炭化物を形成するための量です。タングステンとモリブデンは高温での硬さを支える炭化物をつくる元素で、SKH51ではこの2つを合わせて約11%含んでいます。バナジウムは硬い炭化物(VC)をつくり耐摩耗性を高めますが、この炭化物が後の研削加工を難しくする原因にもなります。クロム3.80〜4.50%は焼入れ性を確保するためのもので、ステンレス鋼のような耐食性を得るには量が足りません。

つまり、SKH51は「高温で硬く、摩耗に強い」ことに全振りした配合です。錆びにくさや削りやすさは、そのために差し出されています。

>>SCM材(クロムモリブデン鋼鋼材)の特徴と加工方法とは?

「コバルトを意図的に添加してはならない」という規定

成分表のなかで、SKH51だけに置かれた特徴的な一文です。

JIS G 4403では、SKH51のコバルトについて「意図的に添加してはならない」と規定されています。コバルトを添加した鋼種はSKH55、SKH57として別に規定されており、コバルト量が増えるほど高温硬さは上がる一方で、靭性が下がって欠けやすくなる傾向があります。SKH51はコバルトを含まないぶん、SKH材のなかでは比較的バランスの取れた位置にあると弊社では捉えています。

「もっと硬い材料を」というご相談でSKH55やSKH57が候補に挙がることもありますが、欠けが問題になっている部品では逆効果になる場合があります。硬さと靭性は多くの場合トレードオフの関係にあり、この点は材質選定の入口で必ず確認したいところです。

SKH51の熱処理|焼入れ1,220℃・焼戻し560℃という条件の意味

【ポイント】 SKH51は熱処理条件が他の鋼種と大きく異なり、対応できる熱処理設備を確保できるかどうかが手配の分かれ目になります。

焼なまし状態で262HBW以下、焼入焼戻し後は800HV

まず、熱処理の前後で硬さがどう変わるのかを押さえます。

状態条件硬さ
焼なまし800〜880℃ 徐冷262HBW以下
焼入れ1,220℃ 油冷
焼戻し560℃ 空冷800HV(およそHRC64)

出典:JIS G 4403:2015 高速度工具鋼鋼材

注目していただきたいのは、焼なまし状態の262HBWという数値です。これはブリネル硬さでおよそHRC25前後に相当し、熱処理をしていない状態でも、S45Cの焼ならし材(約160〜200HBW)より硬いということになります。「焼入れ前だから普通に削れるだろう」という前提は、SKH51では成り立ちません。

なぜ1,220℃という高温で焼入れするのか

一般的な構造用鋼の焼入れ温度が800〜900℃であることを考えると、1,220℃は突出しています。

理由は、タングステンとモリブデンの炭化物にあります。これらの炭化物は非常に安定しているため、通常の焼入れ温度では母材の中に溶け込みません。炭化物が溶けないまま焼入れをすると、高温硬さを支えるはずの合金元素がマルテンサイトの中に入らず、SKH51本来の性能が出ないままになります。1,220℃まで上げるのは、この炭化物を意図的に固溶させるためです。

一方で、この温度域は酸化・脱炭が起きやすい領域でもあります。そのため、SKH51の焼入れは真空炉で行うのが一般的です。私たち平野鉄工では、焼入れや表面処理は独自の加工ネットワークで手配していますが、真空焼入れとサブゼロ処理に対応できる協力会社を確保しています。SKH51の手配でつまずきやすいのはこの部分で、「材料は買えたが焼入れができない」というご相談をいただくこともあります。

二次硬化――560℃で焼き戻すと、かえって硬くなります

焼戻しと聞くと硬さを下げる工程を思い浮かべますが、SKH51では逆の現象が起きます。

焼入れ直後のSKH51には、マルテンサイトに変態しきれなかった残留オーステナイトが多く残っています。500〜560℃で焼き戻すと、残留オーステナイトの中の炭素が微細な炭化物として析出し、炭素が抜けたオーステナイトが冷却時にマルテンサイトへ変態します。この結果、400℃で焼き戻すよりも500℃台で焼き戻したほうが硬くなります。これが二次硬化と呼ばれる現象です。

焼戻しを複数回行う理由

二次硬化には副作用があり、それを潰すために工程が増えます。

焼戻しで新しく生まれたマルテンサイトは、そのままでは硬くて脆い状態です。これを安定させるために、SKH51では焼戻しを2〜3回繰り返すのが一般的です。それでも残留オーステナイトを完全にゼロにするのは難しく、熱処理業界の実験報告では、サブゼロ処理と高温焼戻しを5回繰り返しても数%のオーステナイトが残るとされています。残ったオーステナイトは室温で少しずつマルテンサイトへ変態し、6か月といった長い時間をかけて寸法を変化させることが確認されています。

ゲージや位置決めピンのように、数μmの寸法が意味を持つ部品では、この経年変化が問題になります。サブゼロ処理を挟むかどうかは、要求精度と使用期間から判断するのが弊社の考え方です。

>>サブゼロ処理とは? / >>浸炭焼入れとは?効果、長寿命化への応用まで徹底解説!

SKH51のメリットと、見落とされがちなデメリット

高温でも硬さが落ちない

SKH51を選ぶ理由の第一が、この性質です。

摩擦熱が発生する部位や、加熱された対象に接触する部品では、材料の温度が200℃、300℃と上がっていきます。SUJ2やSKD11は焼戻し温度を超える熱が加わると硬さが下がり始めますが、SKH51は560℃で焼き戻されているため、その手前までは硬さを保ちます。高温環境で摩耗が進む部品では、この差がそのまま寿命の差になります。

耐摩耗性は、条件によってSKD11を上回ります

硬さの数値だけを比べると、両者の差はそれほど大きくありません。

SKD11の焼入焼戻し硬さがHRC58〜62程度であるのに対し、SKH51は800HV(およそHRC64)です。数値の差は2〜4ポイントですが、SKH51はバナジウム炭化物という非常に硬い粒子を含むため、硬い相手材と擦れる用途では摩耗の進み方が変わります。ただし、常温で衝撃が入る用途ではSKD11のほうが安定する場合もあり、SKH51が常に上位互換というわけではありません。

靭性が高いわけではありません

ここが、材質のグレードを上げる判断で最も誤解されやすい点です。

「硬い=丈夫」という理解で材質を上げると、摩耗はしなくなったが今度は欠けるようになった、という結果になることがあります。SKH51はHRC64クラスの硬さを持つ反面、粘り強さでは調質したSCM440などに及びません。曲げや衝撃が入る部位、断面が急に変わる形状、細い径の軸物では、硬さを上げることが裏目に出ます。

弊社にご相談いただいた事例でも、スプライン穴付きのスプロケット軸で割れと欠けが繰り返し発生していたケースがありました。当初はS45Cに表面高周波焼入れという仕様でしたが、表面硬度は足りていても内部の靭性が不足していたことが原因でした。この案件で弊社が提案したのは、より硬い材質ではなく、SCM440に調質処理という「硬さを少し下げて粘りを取る」方向の変更です。結果として、割れ・欠けの不具合は解消しました。

>>シャフト摩耗の原因と対策|シャフトをコストメリット良く活用するためには?

材料費と入手性

見積もりの段階で効いてくる、現実的な制約です。

SKH51は合金元素を多く含むため、材料単価はS45Cの数倍から十数倍の水準になります。丸棒については市中在庫を持つ商社もありますが、径や長さが特殊になると受注生産扱いとなり、材料の入手だけで数週間かかることも珍しくありません。大径の丸物や長尺のシャフトをSKH51で作るという選択は、材料費・納期の両面で現実的でない場合が多いというのが弊社の実感です。

耐食性はありません

クロムを含む鋼材のため、錆びにくいと誤解されることがあります。

SKH51のクロムは3.80〜4.50%で、ステンレス鋼として耐食性を発揮する12%には遠く及びません。防錆は別途、窒化チタンコーティングなどの表面処理か防錆油で対応する前提になります。屋外や水がかかる環境で使う部品であれば、材質をSKH51に上げるより、表面処理まで含めて設計し直したほうが結果が良くなることもあります。

>>硬質クロムめっきの特性を活かすには?

SKH51の加工が難しいと言われる理由

【ポイント】 SKH51の加工は「熱処理の前にどこまで削り、熱処理の後に何を残すか」という工程設計で難易度が決まります。

焼なまし状態でも262HBW――削り始める前から硬い

加工の難しさは、焼入れ後だけの話ではありません。

SKH51の焼なまし硬さは262HBW以下と規定されており、実際に手配される材料もその上限に近い値であることが多くあります。S45Cの焼ならし材が約160〜200HBWですから、生材の段階ですでに1.3〜1.6倍の硬さです。さらに、母材の中には焼なましでは溶けない炭化物が粒として残っており、この粒が工具刃先を局所的に削ります。同じ切削条件で回すと工具寿命が数分の一になることもあり、切削速度を落とし、刃先の逃げ角と被膜を選び直す必要があります。

焼入れ後はHRC64クラス、削るなら工具と条件を選びます

焼入れ後の加工は、そもそも成立するかどうかから検討します。

800HV(およそHRC64)の状態では、一般的な超硬工具での切削は現実的ではなく、研削加工か、CBN工具による硬質材切削が選択肢になります。研削においても、バナジウム炭化物は一般的なアルミナ砥石の砥粒より硬いため、砥石の消耗が早く、CBN砥石を使うほうが結果が安定する場合があります。

弊社では、真空焼入れを施したSUJ2(HRC58〜64クラス)やSKD11(HRC58〜62クラス)の研磨仕上げを日常的に行っています。ただし、対応できる硬さの上限をHRCいくつと数値で線引きしているわけではなく、形状・寸法・要求精度と合わせて個別に判断しています。

研削焼けと歪み

硬い材料を削るときに、最も起きやすい失敗です。

研削時の発熱が大きくなると、表層が局所的に焼戻され、硬さが下がったり微細な割れが入ったりします。見た目には仕上がっていても、使い始めてから表面が剥がれるように摩耗する、という形で表れます。また、SKH51は1,220℃という高温から油冷されるため、熱処理そのものでも歪みが出ます。細長い形状や肉厚が偏った形状では、焼入れ後に狙いの寸法から外れることを前提に取り代を残しておく必要があります。

どこまでを生材で削り、どこからを焼入れ後に回すか

ここまでの制約をまとめると、工程の順番そのものが設計対象になります。

弊社でSKH51のロケーションピン(Φ32×61、はめあい部φ16 g6:-0.006〜-0.017)を製作した際は、次の工程で進めました。

旋盤 → 刻印 → 真空焼入れ → 研磨 → 窒化チタンコーティング

形状をつくる旋削と刻印は、まだ削りやすい焼なまし状態のうちに済ませます。硬さが必要なので真空焼入れを入れ、熱処理で出た歪みと寸法変化を研磨で取り切ってg6の公差に入れます。最後に窒化チタンコーティングで表層をさらに硬く仕上げる、という流れです。刻印を焼入れ後に打つことはできませんし、g6の公差を焼入れ前に出しても熱処理で動いてしまいます。工程の順番を先に決めておかないと、後戻りできない場面が出てきます。

>>旋盤加工で作られている丸物部品の特徴

SKH51・SKD11・SUJ2の使い分け

【ポイント】 硬さの数値ではなく、「温度」「衝撃」「材料費と納期」の3点で見ていくと、選ぶべき鋼種が絞れます。

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SUJ2は軸受やローラーで使われる代表的な高炭素クロム軸受鋼です。SKH51との比較では、高温硬さだけでなく、用途、熱処理、研削工程、材料費まで含めて判断します。 SUJ2の特徴・加工と熱処理 →

3鋼種の比較

丸物部品の材質選定でよく候補に挙がる3つを並べます。

項目SKH51SKD11SUJ2
分類高速度工具鋼(JIS G 4403)合金工具鋼(JIS G 4404)高炭素クロム軸受鋼(JIS G 4805)
焼入焼戻し硬さの目安800HV(およそHRC64)HRC58〜62HRC58〜64
高温での硬さ500〜600℃まで保持中程度低い(200℃前後で低下)
靭性低め低め低め
耐食性なしなしなし
材料費の目安高い中〜高
丸棒の入手性標準径は可、特殊径は受注生産比較的良い良い
主な用途切削工具、パンチ、位置決めピンプレス金型、刃物軸受、ローラー、シャフト

硬さだけを見ると3鋼種は近い位置にありますが、性格はかなり違います。ただし、この表はあくまで一般的な目安であり、同じ鋼種でも熱処理条件によって実際の値は変わります。

判断軸①:部品の温度が上がるかどうか

最初に確認したいのが、使用時の温度です。

常温付近で使う部品であれば、SKH51の最大の長所である高温硬さは活きません。この場合はSKD11やSUJ2で足りることが多く、材料費と納期の面で有利です。逆に、摩擦熱や外部からの加熱で200℃を超える部位では、SUJ2の焼入れ品は硬さが落ちていきます。SKH51を検討する価値があるのは、この温度域からです。

判断軸②:衝撃が入るか、擦れるだけか

次に、部品にかかる力の種類を見ます。

摩耗の形が「相手材と擦れて少しずつ減っていく」ものであれば、硬さを上げる方向が効きます。一方、「割れる」「欠ける」「角が飛ぶ」という壊れ方をしている部品では、硬さを上げると悪化します。この場合はSCM440の調質のように、硬さを抑えて靭性を確保する方向が正解になることがあります。

>>SNC材(ニッケルクロム鋼)のそれぞれの種類と特徴、加工方法まで解説!

判断軸③:材料費と納期をどこまで許容できるか

技術的に成立しても、事業として成立しなければ採用できません。

SKH51は材料単価が高く、真空焼入れという工程も加わるため、部品単価はS45C品の数倍になることがあります。ここで見るべきは部品単価ではなく、交換頻度まで含めたトータルのコストです。弊社の別案件でも「単価は3倍に上がるが、寿命が3倍以上になればトータルでは安い」という判断で仕様を決めたことがあります。逆に、年に一度の定期メンテナンスで交換する前提の部品であれば、寿命を必要以上に伸ばしても投資が回収できません。

切り分けチェックリスト

  • 使用温度は200℃を超えますか → 超えるならSKH51が候補
  • 壊れ方は「摩耗」ですか、「割れ・欠け」ですか → 割れ・欠けなら靭性側へ
  • 径と長さは標準的な丸棒で収まりますか → 大径・長尺なら別の手を検討
  • 交換周期はどれくらいですか → 短いほどSKH51の投資が回収しやすい
  • 錆びる環境で使いますか → 使うなら表面処理とセットで設計

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材質を上げる前に検討したい、熱処理・表面処理という選択肢

【ポイント】 摩耗を止める方法は材質のグレードアップだけではなく、熱処理の変更や表面処理で解決するケースが少なくありません。

熱処理の種類を変えるだけで解決する場合があります

材質を上げる前に、まず熱処理の見直しを検討することをおすすめしています。

弊社にご相談いただいた設備用の段付きシャフトでは、当初S45Cに高周波焼入れという指定をいただいていました。硬度を上げたい、しかしコストは下げたい、という相反するご要望でした。ただ、炭素鋼であるS45Cに高周波焼入れを行うと、硬度にばらつきが生じやすいという材料特性上の弱点があります。

納期に余裕があるというお話をヒアリングで伺えたため、弊社からはSNC415に浸炭焼入れという仕様を逆提案しました。表面は硬く、内部はニッケルの効果で粘りが残る組み合わせです。結果として硬度のばらつきがなくなり、交換頻度が下がりました。部品単価の上昇は抑えたまま、メンテナンス回数を減らすことでトータルの調達コストを下げられた事例です。

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表層だけを硬くするという考え方

部品全体を硬い材料にする必要が、本当にあるかどうかです。

摩耗が起きているのは多くの場合、部品の表面から数十μmから数百μmの範囲です。この範囲だけを硬くできれば、母材は加工しやすく粘りのある材料のまま残せます。硬質クロムめっき、窒化チタンコーティング、溶射といった表面処理は、この考え方に沿った手段です。前述のロケーションピンでも、SKH51の母材に窒化チタンコーティングを重ねています。

ただし、表面処理には膜厚の限界があり、大きな面圧がかかる部位では皮膜ごと押し潰される場合があります。すべての摩耗が表面処理で解決するわけではない、という点はお伝えしておきます。

>>硬質クロムめっきの特性を活かすには?

「SKH51で」というご依頼を、そのままお受けしない場合があります

ここが、弊社が材質選定でお伝えしている考え方です。

図面に指定された材質で作ることは、加工会社として当然の仕事です。ただ、その部品がなぜ早く摩耗しているのか、なぜ割れているのかを伺わないまま材質だけを上げると、コストが上がっただけで問題が残る、という結果になりかねません。弊社では、材質のグレードを上げる前に、壊れ方・使用環境・交換周期を確認させていただき、必要であれば別の材質や熱処理をご提案しています。

ここまでコラムを読んでいただいているあなたのように、多くのご担当者が「この摩耗はもう材質を上げるしかないのだろうか」と迷いながら、材料メーカーや加工会社を探されています。弊社は、材質を上げることが常に正解だとは考えていません。SNC415への変更でも、SCM440への変更でも、結果として寿命が伸びるのであれば、それが正しい選択だと捉えています。

材質選定からのVA/VE提案は、平野鉄工にご相談ください

材料手配・熱処理は加工ネットワーク、加工は自社で持ちます

弊社の体制を、率直にご説明します。

平野鉄工は1982年設立、愛知県名古屋市港区で金属部品の製造・加工を行っています。自動車業界では30年以上の実績があります。旋盤加工をはじめとする機械加工は自社で行い、真空焼入れ・サブゼロ処理・浸炭焼入れ・高周波焼入れ・各種表面処理は、独自の加工ネットワークを通じて手配しています。SKH51のような特殊な熱処理条件が必要な材料でも、材料の手配から焼入れ後の仕上げ、コーティングまでを一つの窓口でまとめられる体制です。

SKH51のロケーションピン製作事例

実際にお受けした案件をご紹介します。

項目内容
部品名ロケーションピン
材質SKH51
寸法Φ32×61
公差φ16 g6(-0.006〜-0.017)
工程旋盤 → 刻印 → 真空焼入れ → 研磨 → 窒化チタンコーティング

焼なまし状態で旋削と刻印を済ませ、真空焼入れで硬さを出し、熱処理で動いた寸法を研磨でg6に追い込み、最後に窒化チタンコーティングを施しています。材料手配・熱処理・コーティングを別々に発注すると、工程間の受け渡しと納期調整だけで手間がかかりますが、弊社にまとめてご依頼いただければ、図面1枚から完成品までをお引き受けできます。

対応範囲

丸物加工の対応範囲は次のとおりです。

  • 対応径 最小Φ5mm〜最大Φ900mm(加工ネットワーク活用時)。最も得意とする中型丸物はΦ300〜600mm
  • 長尺の実績 長さ1,926mmのテーブルローラー、長さ2,000mmのレールなど
  • 標準公差 軸物でh7級
  • 精密加工の実績公差 精密ゲージ類で±0.005mm
  • 取扱材料 SS材、S45C〜S55C、SNC材、SUJ材、SCM材、BC材ほか

>>S45Cの特徴と加工方法とは? / >>ローラーシャフトとは?用途から選定方法、耐久性向上を実現する方法まで徹底解説!

まずは図面をお送りください

材質が決まっていない段階でのご相談も歓迎しています。

「SKH51で見積もってほしい」というご依頼はもちろん、「この部品の摩耗が止まらないので、材質から相談したい」というご相談もお受けしています。図面と、現在の材質・使用環境・壊れ方・交換周期をお知らせいただければ、材質選定からVA/VE提案までまとめてご回答します。ローラー・シャフトをはじめとする丸物部品の長寿命化について、まずはお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. SKH51とSKD11の違いは何ですか?

A. SKH51は高速度工具鋼で500〜600℃でも硬さを保ちます。SKD11は合金工具鋼で常温での耐摩耗性に優れます。

Q. SKH51は錆びますか?

A. 錆びます。クロムは3.80〜4.50%で耐食性はなく、防錆油か表面処理での対策が前提になります。

Q. SKH51の硬度はどれくらいですか?

A. JIS G 4403では焼入焼戻し後800HV、およそHRC64です。焼なまし状態でも262HBW以下と規定されています。

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