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タフトライド処理とは?塩浴軟窒化の原理・硬度・膜厚から適用材質まで徹底解説!

2026/08/13

  • 長寿命化
  • 表面処理
タフトライド処理とは?塩浴軟窒化の原理・硬度・膜厚から適用材質まで徹底解説!

シャフトやローラーの摩耗対策として、図面に「タフトライド」と指示された経験のある方は多いと思います。ところが、処理をかけたはずの軸受接触面が1年経たずに摩耗し、「硬くしたはずなのに、なぜ」というご相談を、私たち平野鉄工株式会社は何度もお受けしてきました。原因の多くは、硬さではなく硬化層の深さにあります。タフト

シャフトやローラーの摩耗対策として、図面に「タフトライド」と指示された経験のある方は多いと思います。ところが、処理をかけたはずの軸受接触面が1年経たずに摩耗し、「硬くしたはずなのに、なぜ」というご相談を、私たち平野鉄工株式会社は何度もお受けしてきました。原因の多くは、硬さではなく硬化層の深さにあります。タフトライド処理の硬化層は、全体でも0.01〜0.3mm。この数字を知らないまま指示すると、処理と要求性能がすれ違います。この記事では、タフトライド処理の原理と工程、材質ごとの硬さ、膜厚の実力値、他の熱処理との違いを数値で整理したうえで、「タフトライドで足りる部品」と「足りない部品」を切り分ける判断軸までご説明します。

タフトライド処理とは?

【定義】 タフトライド処理とは、500〜600℃の溶融塩のなかに鋼を浸し、表面から窒素と炭素を同時に染み込ませて硬い層をつくる表面硬化処理のことです。

焼入れのように部品全体を硬くするのではなく、表面から0.01〜0.3mmという浅い範囲だけを硬くします。処理温度が焼入れ(850〜1050℃)に比べて低く、水や油で急冷しないため、変形がほとんど出ないことが最大の特徴です。ローラーやシャフトのような細長い丸物部品にとって、この「歪まない」という性質は、硬さそのものと同じくらい重要な意味を持ちます。

タフトライドは商標名です。一般名は「塩浴軟窒化」

まず用語を整理しておきます。

「タフトライド®」はデュルフェリット(デグサ)社の登録商標であり、処理方法そのものの名前ではありません。一般名称は塩浴軟窒化です。同じ塩浴軟窒化を、日本パーカライジング株式会社は「イソナイト®」として展開しており、こちらも商標です。つまり、タフトライドとイソナイトは会社と商標が違うだけで、鋼の表面で起きていることは本質的に同じです。

図面に「タフトライド」と書かれていても、実際に協力会社の現場で走る工程は塩浴軟窒化です。ただし、塩浴の組成や後処理は各社で異なるため、まったく同じ結果になるとは限りません。仕上がりに厳しい要求がある場合は、処理業者を固定しておくことをおすすめします。 [>>金属部品の表面処理の種類と選び方

JIS B 6915では記号「HNC-S」として規定されています

タフトライドという商標名に対して、JISには正式な分類があります。

JIS B 6915「鉄鋼の窒化及び軟窒化加工」では、窒化・軟窒化・酸窒化の加工方法が7種類に分類され、それぞれに記号が与えられています。塩浴軟窒化はそのうちの一つで、記号はHNC-Sです。

加工方法記号
ガス窒化HNT-G
プラズマ窒化HNT-P
ガス軟窒化HNC-G
プラズマ軟窒化HNC-P
塩浴軟窒化(タフトライド)HNC-S
ガス酸窒化HON-G
プラズマ酸窒化HON-P

(出典:JIS B 6915 鉄鋼の窒化及び軟窒化加工)

商標名で指示すると、その商標を持たない処理業者では見積が取りにくくなる場合があります。弊社では、図面には一般名または記号で書き、商標名は補記に留めるほうが調達の自由度が上がると考えています。

「窒化」と「軟窒化」は、入れるものが違います

名前が似ているため混同されやすいのですが、この2つは別の処理です。

窒化は、鋼の表面に窒素だけを拡散させる処理です。対して軟窒化は、窒素に加えて炭素も同時に拡散させます。炭素が入ることで、鋼種を選ばず短時間で化合物層が形成されやすくなります。ガス窒化が20〜100時間かかるのに対し、塩浴軟窒化は10分〜数時間で終わるのは、この違いによるところが大きいと言われています。

「軟」という字が付くため硬さが劣ると受け取られがちですが、狙いは硬さの絶対値ではなく、短時間かつ低変形で耐摩耗性と耐焼付き性を持たせる点にあります。

塩浴のなかで起きていること――処理の原理と工程

【ポイント】 タフトライド処理の性能は、塩浴の組成と温度、そして浸漬時間の3つでほぼ決まります。

シアン酸塩と炭酸塩の混合塩浴に、空気を吹き込む

塩浴の中身から見ていきます。

タフトライド処理で使われるのは、シアン酸塩と炭酸塩を混合した溶融塩です。この塩浴に空気を吹き込むことで、シアン酸塩が分解し、窒素と炭素を供給する状態が保たれます(出典:小池テクノ 表面処理用語集)。空気を送り続けるのは、浴の成分を一定に保つためです。

この「シアンを使う」という点が、後述するコストと環境面の制約に直結します。処理そのものの原理は単純ですが、扱いには専用設備と廃液管理の体制が必要です。

500〜600℃で、窒素と炭素を同時に入れます

温度条件を数値で押さえておきます。

処理温度は500〜600℃、実務上は570〜580℃前後で運用されることが一般的です(出典:ミスミmeviy、三和メッキ工業、アーク溶研)。処理時間は10分〜数時間で、1〜3時間程度が多く採用されています。

この温度は、鉄の変態点(A1変態点、およそ727℃)より低い領域です。組織が大きく変わらないため、焼入れのような急激な体積変化と変形が起きません。ローラーやシャフトのような長尺の丸物にとって、これは大きな利点です。 [>>浸炭焼入れとは?効果、長寿命化への応用まで徹底解説!

化合物層と拡散層、2つの層ができます

処理後の断面は、単一の硬い膜ではありません。

表面側にできるのが化合物層(白層とも呼ばれます)で、厚みは数μm〜十数μmです。窒素と鉄の化合物からなる、硬くて脆い層です。その下に、窒素が母材へ染み込んだ拡散層が続きます。耐摩耗性と耐焼付き性を担うのが化合物層、疲労強度を支えるのが拡散層、という役割分担になります。

この2層構造を理解しておくと、後で説明する「硬いのに摩耗した」という現象の理由が見えてきます。化合物層はごく薄いため、それを削り切るような摩耗が起きる環境では、性能を維持できません。

タフトライド処理で得られる4つの効果

【ポイント】 タフトライドは「硬くする処理」というより、「表面の性質を変える処理」と捉えたほうが、選定を誤りにくくなります。

表面硬度が上がる

もっとも分かりやすい効果です。

表面硬度はHV700〜1200程度まで上がるとされていますが(出典:アーク溶研)、これは合金元素を多く含む鋼種での値です。後述するとおり、S45Cのような炭素鋼ではHV450〜600にとどまります。同じ処理をかけても、材質によって結果は2倍以上変わります。

摩耗と焼付きに強くなる

丸物部品で最も評価されているのは、この点です。

化合物層は相手材との親和性が低く、金属同士が直接こすれて溶着する「焼付き(かじり)」を起こしにくくなります。潤滑が切れやすい低速・高面圧の摺動部で効果が出やすい処理です。ただし、化合物層を削り切るほどの摩耗が続く条件では、効果は一時的なものにとどまります。 [>>硬質クロムめっきの特性を活かすには?丸物加工品の長寿命化を実現するためのポイントを解説!

疲労強度が上がる

見落とされがちですが、シャフトでは重要な効果です。

拡散層には圧縮の残留応力が生じるため、表面から始まる疲労き裂が発生しにくくなります。繰り返し曲げやねじりを受ける回転軸では、耐摩耗性よりもこちらの効果を狙って採用されるケースがあります。

めっき程度の防錆性がつく

副次的ですが、実務では効いてきます。

炭素鋼に処理した場合、亜鉛めっきや硬質クロムめっき程度の防錆効果が得られるとされています(出典:Mitsuri Media)。黒色に仕上がるため、外観面での要求にも応えられます。ただし、屋外や水がかかる環境で無処理のまま長期間持たせられるほどの耐食性ではありません。防錆油の併用や、別の表面処理との組み合わせを検討してください。

膜厚は0.01〜0.3mm――数値で見るタフトライドの実力

【ポイント】 タフトライドを選ぶかどうかの判断は、硬さの数値ではなく、硬化層の深さで行うべきだと弊社は考えています。

化合物層は数μm〜十数μm

まず一番外側の層です。

耐摩耗性・耐焼付き性を実際に担っている化合物層は、数μm〜十数μmしかありません(出典:アーク溶研、ミスミmeviy)。0.01mmから0.015mm程度、と言い換えたほうが実感が湧くかもしれません。研磨で0.02mm削れば、この層は消えます。

硬化層全体で0.01〜0.3mm、実用窒化深さは0.05〜0.1mm

拡散層まで含めた深さを見ます。

化合物層と拡散層を合わせた硬化層全体の厚みは0.01〜0.3mm、実用上の窒化深さは0.05〜0.1mmとされています(出典:ミスミmeviy、Mitsuri Media)。浸炭焼入れの硬化層が0.5〜2.0mmであることと比べると、一桁違います。

摩耗が0.05mm進めば、硬化層の大半を失う。この事実が、タフトライドの適用範囲をほぼ決めています。 [>>シャフト摩耗の原因と対策|シャフトをコストメリット良く活用するためには?

寸法変化は数μm程度。精密部品に使われてきた理由です

薄さは弱点であると同時に、最大の武器でもあります。

タフトライド処理による寸法変化は数μm程度です(出典:ミスミmeviy)。研削仕上げまで終えた部品に後工程としてかけても、公差から外れにくい。焼入れのように歪みを取るための後加工を織り込む必要がありません。

金型部品や精密シャフトでタフトライドが長く使われてきたのは、硬さのためというより、この「仕上がり寸法が動かない」という性質のためです。ただし、素材に大きな残留応力が残っている場合は、処理中に応力が解放されて変形することがあります。荒加工の後に応力除去焼なましを挟むなど、工程設計での配慮が必要です。

材質によって、硬さの出方は大きく変わります

【ポイント】 同じタフトライド処理でも、材質が違えば表面硬度は2倍以上変わります。処理を選ぶ前に、材質を選び直したほうが早い場合があります。

S45C・SS400などの炭素鋼はHV400〜600どまり

まず、丸物部品でよく使われる炭素鋼から見ていきます。

材質別の処理後硬度は、下表のとおりです。

材質未処理(HV)タフトライド処理後(HV)
SPCC105以下400〜500
SS400120〜140400〜500
S45C201〜269450〜600
SCM440285〜352750〜850
SACM645241〜3021100〜1300
SUS304200以下1100〜1300

(出典:Mitsuri Media)

S45CはHV450〜600です。高周波焼入れをかけたS45CがおおむねHV500〜600に入ることを考えると、硬さの数値そのものは大きく変わりません。違うのは深さです。 [>>S45Cの特徴と加工方法とは?

SCM440はHV750〜850、SACM645はHV1100〜1300

合金元素の量が、そのまま硬さに出ます。

クロムやモリブデン、アルミニウムといった元素は窒素と結びついて硬い窒化物をつくるため、これらを含む鋼種ほど高い硬度が得られます。SCM440でHV750〜850、アルミクロムモリブデン鋼のSACM645ではHV1100〜1300に達します。

「タフトライドで硬度を上げたい」というご要望をいただいたとき、弊社がまず確認するのは処理条件ではなく材質です。S45CのままHV900を求められても実現できませんが、材質をSCM440やSACM645へ変えれば、同じ処理で到達します。 [>>SCM材(クロムモリブデン鋼鋼材)の特徴と加工方法とは?] [>>SNC材(ニッケルクロム鋼)のそれぞれの種類と特徴、加工方法まで解説!

ステンレスは硬くなりますが、耐食性が落ちます

SUS材への適用には、注意点があります。

SUS304はHV1100〜1300まで硬くなりますが、そのためには表面の不働態皮膜を壊す「活性化処理」が事前に必要です(出典:ミスミmeviy)。そして不働態皮膜が失われる結果、ステンレス本来の耐食性は低下します(出典:Mitsuri Media)。

錆びないことを目的にSUSを選んだ部品にタフトライドをかけると、材質選定の前提そのものが崩れます。耐摩耗性と耐食性を両立させたい場合は、別の組み合わせを検討したほうが確実です。

焼入れ済みの部品にかけると、母材が軟らかくなることがあります

工程順に関わる、実務上いちばん多い落とし穴です。

タフトライドの処理温度は500〜600℃です。この温度が母材の焼戻し温度を上回っていると、処理中に焼戻しが進み、せっかく出した内部硬度が下がります(出典:ミスミmeviy)。高周波焼入れや調質を施した部品に後工程としてかける場合は、焼戻し温度が処理温度より高いことを必ず確認してください。 [>>高周波焼入れとは?シャフトやギヤの耐久性を高めるためのポイントとは?

タフトライド処理のデメリットと、設計段階で押さえたい注意点

【ポイント】 タフトライドが選べない理由は、性能面よりも寸法と設備の制約であることが多くあります。

硬化層が薄い。「硬いのに摩耗した」が起きる理由

冒頭でご紹介した相談の正体が、ここにあります。

タフトライドは表面をHV1000近くまで硬くできますが、その硬さが効いているのは表面から0.05〜0.1mmまでです。軸受との接触部が年間1mm近く偏摩耗するような使われ方をしている部品では、硬化層は数ヶ月で失われます。硬度計の数字が高くても、摩耗量に対して層が薄すぎるという状況です。

弊社にご相談いただく摩耗トラブルのかなりの割合が、この「硬さと深さの取り違え」で説明できます。止めたい摩耗量が0.1mmを超えるなら、タフトライドではなく浸炭焼入れ、高周波焼入れ、あるいは溶射による肉盛りを検討すべきだと考えています。

処理槽の制約――長尺のシャフトは、そもそも入りません

カタログにはあまり書かれていない、しかし実務では頻繁に効いてくる制約です。

塩浴軟窒化は溶融塩の入った槽に部品を浸す処理のため、処理できる寸法は槽の大きさで決まります。一般的な処理槽は数十cm〜約1m前後です(出典:ミスミmeviy)。

弊社が扱うローラーやシャフトには、長さ1,926〜2,000mmといった長尺物が含まれます。この寸法になると、性能面でタフトライドが最適だったとしても、物理的に槽へ入りません。設計段階で処理を決めてから「入る槽がない」と分かり、材質と処理を組み直すことになったケースもございます。長尺物では、高周波焼入れのように移動しながら処理できる工法のほうが現実的です。 [>>ローラーシャフトとは?用途から選定方法、耐久性向上を実現する方法まで徹底解説!

シアン塩を使うため、廃液管理のコストが処理費に乗ります

環境面の制約が、価格に反映されます。

塩浴の主成分であるシアン酸塩は、廃液の管理が厳しく求められる物質です(出典:小池テクノ)。処理業者は専用の設備と管理体制を維持する必要があり、その負担は処理単価に含まれます。対応できる業者が地域によって限られる点も、納期に影響します。

同等の目的であればガス軟窒化のほうが公害対策の面で扱いやすく、近年はこちらを標準とする業者も増えています。ただし、処理時間と得られる層の性質は同じではないため、単純な置き換えができるとは限りません。

処理後に、寸法は追い込めません

工程順の話に戻ります。

化合物層は数μm〜十数μmしかありません。処理後に0.02mmでも研磨すれば、性能を担う層は消えます。つまり、タフトライドは最終工程です。処理後の寸法調整を前提とした工程設計は成り立ちません。公差の追い込みは、処理前の研削で完了させておく必要があります。

他の熱処理・表面処理との違いを整理します

【ポイント】 選定に迷ったときは、硬さではなく「必要な硬化層の深さ」から逆算すると、答えが早く出ます。

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タフトライドは軟窒化の一方式です。ガス窒化やプラズマ窒化を含めた全体像から比較すると、硬化層、寸法変化、適用材質の違いを整理しやすくなります。 窒化処理の原理・種類と材質選定 →

タフトライド/ガス窒化/ガス軟窒化/浸炭焼入れの比較

代表的な4つを、同じ軸で並べます。

処理温度/時間硬化層の厚さ特徴
タフトライド(塩浴軟窒化)500〜600℃/10分〜数時間0.01〜0.3mm短時間、変形が小さい
ガス窒化500〜550℃/20〜100時間0.3〜0.6mm以上厚い層と高硬度、時間がかかる
ガス軟窒化530〜600℃/2〜5時間0.1〜0.3mm公害対策がしやすい
浸炭焼入れ850〜1050℃/数時間0.5〜2.0mm衝撃に強い、変形が出る

(出典:ミスミmeviy)

処理時間の桁が違う点にご注目ください。ガス窒化の20〜100時間に対し、タフトライドは10分〜数時間です。量産品でタフトライドが選ばれてきたのは、この処理時間の短さによるところが大きいと考えています。 [>>浸炭焼入れとは?効果、長寿命化への応用まで徹底解説!

高周波焼入れとの違いは「深さ」です

丸物部品では、この2つが比較対象になることが最も多くあります。

高周波焼入れは、鋼を変態点以上まで加熱してから急冷し、表面から1〜3mm程度の深さを硬くする処理です。硬化層の深さで比べると、タフトライドの10倍以上になります。一方で急冷を伴うため、細長い部品では曲がりが出て、後工程での修正や研削が必要になります。

タフトライドは変形を避けたいときの処理、高周波焼入れは深さがほしいときの処理。乱暴な整理ではありますが、選定の出発点としてはこの理解で大きく外しません。 [>>高周波焼入れとは?シャフトやギヤの耐久性を高めるためのポイントとは?

タフトライドとイソナイトは、本質的に同じ処理です

よくいただくご質問なので、ここで明確にしておきます。

タフトライド®はデュルフェリット社、イソナイト®は日本パーカライジング株式会社の商標であり、どちらもJIS上は塩浴軟窒化(HNC-S)に分類されます。違いは商標と提供企業であって、原理が異なるわけではありません。

ただし、日本パーカライジングはシアン含有量を抑えた「TF-1処理」や、その後に特殊塩浴で冷却して耐食性を高める「SQ処理」といった派生工法を展開しています。耐食性まで求める場合は、こうした後処理付きの仕様を指定する必要があります。

タフトライドで足りる部品、足りない部品の切り分け方

【ポイント】 弊社では、お客様から「タフトライドで」とご指示をいただいた際、次の3点を確認したうえで、必要なら別の工法をご提案しています。

判断軸①:止めたい摩耗量は0.05mmか、1mmか

最初に確認するのは、硬さではなく摩耗量です。

現在使っている部品が、交換までにどれだけ摩耗しているか。実測値をお持ちであれば、それが最も確かな判断材料になります。摩耗量が0.05mm程度で済んでいるなら、タフトライドの硬化層で十分に受け止められます。

一方、以前ご相談いただいた送風機のシャフトでは、S45C・Φ50×L800の軸受接触面が、1年足らずで約1mmの偏摩耗を起こしていました。この量になると、硬化層0.01〜0.3mmの処理では対処できません。このときは高周波焼入れと研磨、あるいは溶射による肉盛り再生という選択肢をご提示し、寿命とコストの両面から比較していただきました。

判断軸②:その部品は、処理槽に入る寸法か

性能の話をする前に、物理的に処理できるかを確認します。

処理槽はおおむね数十cm〜1m前後です。長さ1mを超えるシャフトは、この時点で候補から外れる可能性が高くなります。処理業者によって槽のサイズは異なりますので、長尺物では材質と工法を決める前に、対応可能な寸法を確認しておくことをおすすめします。

判断軸③:面圧と衝撃は、どれくらいかかるか

最後に、部品にかかる力の種類を見ます。

化合物層は硬い反面、脆さがあります。打撃や衝撃荷重が繰り返しかかる部位では、層が割れたり剥離したりすることがあります。衝撃を受ける部品には、硬化層が0.5〜2.0mmと厚く、靭性を確保しやすい浸炭焼入れのほうが向いています。

切り分けチェックリスト

以下に2つ以上当てはまる場合、タフトライド以外の工法を含めて検討されることをおすすめします。

  • 想定摩耗量が0.1mmを超える
  • 部品の全長が1mを超える
  • 打撃や衝撃荷重を受ける部位である
  • 屋外や水がかかる環境で使用する
  • 母材の焼戻し温度が600℃を下回っている

図面への指示方法と、加工工程のなかでの順番

【ポイント】 タフトライドは最終工程です。工程順を決めてから公差を決めると、手戻りが減ります。

図面表記(タフトライド/軟窒化/HNC-S)と、商標の扱い

図面の書き方には、いくつかの選択肢があります。

実務では「タフトライド」「軟窒化」「塩浴軟窒化」といった表記が混在しています。商標名で書くと意図は伝わりやすい反面、その商標を扱わない処理業者では見積が取りづらくなります。弊社としては、一般名(塩浴軟窒化)またはJIS記号(HNC-S)を主表記とし、必要に応じて商標名を補記する書き方をおすすめしています。硬化層深さや化合物層厚さに要求がある場合は、数値で併記してください。

旋削 → 焼入焼戻し → 研削 → 軟窒化、という順番になる理由

丸物部品の標準的な工程順を示します。

理由は単純です。軟窒化の後に研削を入れると、化合物層が削れてしまうためです。そして焼入焼戻しを先に済ませておくのは、焼入れによる変形を研削で取り切ってから、変形の出ない軟窒化を最後に乗せるためです。順番を入れ替えると、どちらかの目的が失われます。

繰り返しになりますが、母材の焼戻し温度が軟窒化の処理温度(500〜600℃)を下回っている場合、この順番でも内部硬度が下がります。工程順と材質は、セットで決める必要があります。 [>>旋盤加工ってなに?意味と魅力について

硬化層深さの確認はJIS G 0562によります

受入検査の基準についても触れておきます。

JIS B 6915では、窒化層深さ試験はJIS G 0562によると定められています。金属組織を観察して判定する場合は、一視野内における最大値をもって窒化層深さとする、という規定です。数値で管理したい場合は、この試験方法を図面または仕様書に明記しておくと、業者間での解釈のずれを避けられます。

平野鉄工が、タフトライドを含めて一貫手配できる理由

【ポイント】 私たち平野鉄工株式会社は、「材料選定」「表面処理」「加工方法」の3つを組み合わせて部品を長寿命化することを、事業の中心に据えています。

材料選定の段階から逆提案します

処理条件を詰める前に、材質を見直したほうが早いことがあります。

先ほどの硬度表のとおり、S45CとSACM645では、同じタフトライド処理でも表面硬度が2倍以上変わります。「処理で何とかしたい」というご相談をいただいたとき、弊社がまず確認するのは材質です。材質を変えるだけで要求硬度に届くなら、そのほうが確実で、結果的に安く収まることも少なくありません。 [>>SUJ2の特徴と加工のポイントから熱処理まで徹底解説!

加工・熱処理・表面処理を、一つの窓口でまとめます

タフトライド処理そのものは、協力会社へ手配しています。

弊社は名古屋市港区で1982年から金属部品の製造・加工を続けており、旋盤加工を軸に、熱処理・表面処理まで含めた手配を一つの窓口でお受けしています。対応寸法は丸物でΦ5mm〜Φ900mm、長さは2,000mm程度までの実績がございます。

工程が分かれていると、「処理業者の槽に入らない」「焼戻し温度と処理温度が逆転していた」といった問題が、部品が出来上がってから発覚します。加工と処理を一つの窓口でまとめる意味は、コストよりも、この種の手戻りを工程設計の段階で潰せる点にあると考えています。

「タフトライドで」というご依頼を、そのままお受けしない場合があります

弊社の立場を、はっきり申し上げておきます。

ご指定いただいた処理が要求性能に合っていないと判断した場合、私たちは一度立ち止まって、別の工法をご提案します。ご指示どおりに作れば、その時点の仕事にはなります。ただ、半年後に同じ部品が同じように摩耗して戻ってくるのであれば、お客様にとっても弊社にとっても意味がありません。

摩耗量、寸法、使用環境。この3つを伺ったうえで、タフトライドで足りるなら手配し、足りないなら高周波焼入れや溶射、あるいは材質変更を含めた選択肢を並べてご相談します。

ローラー・シャフトの長寿命化のご相談は、平野鉄工へ

ここまで記事をお読みいただいたあなたのように、多くのご担当者が「この処理で本当に持つのだろうか」と迷いながら仕様を決めておられます。判断に必要なのは、処理のカタログ値ではなく、その部品がどう使われているかという情報です。

ご相談いただいた事例

摩耗した送風機シャフトのご相談では、材質S45C・Φ50×L800の軸受接触面が、1年足らずで約1mmの偏摩耗を起こしていました。お客様からは「機能はもとより、靭性や強度を損なうことなく、部分的でよいので耐摩耗性を向上させる方法はないものか」というご要望をいただきました。

このケースでは硬化層0.01〜0.3mmのタフトライドでは対処できないと判断し、高周波焼入れと研磨、ステンレス溶射、超硬溶射という3つの工法を、それぞれの寿命見込みと費用の見通しとあわせてご提示しました。単価が上がっても寿命が3倍以上になれば、交換工数と停止時間まで含めたトータルコストでは安くなります。この比較ができる形でお出しすることを、弊社は大切にしています。 [>>シャフト摩耗の原因と対策|シャフトをコストメリット良く活用するためには?

対応範囲

丸物部品の旋盤加工を主軸に、以下の範囲でお受けしています。

  • 対応寸法:Φ5mm〜Φ900mm(協力会社ネットワーク活用時)、長さ2,000mm程度までの実績
  • 対応工程:材料手配、旋盤加工、熱処理・表面処理の手配、溶接・肉盛りによる再生
  • 所在地:愛知県名古屋市港区(1982年設立)

まずは図面をお送りください

図面と、現在お使いの部品がどのように摩耗しているかが分かる情報(摩耗量、交換頻度、使用環境)をいただければ、タフトライドで足りるかどうかを含めて回答いたします。材質選定やVA/VEのご相談だけでも構いません。

よくある質問

Q. タフトライドと焼入れは何が違いますか?

A. 焼入れは部品全体を硬くし、タフトライドは表面0.01〜0.3mmだけを硬くします。変形量も大きく異なります。

Q. タフトライドとイソナイトは違う処理ですか?

A. どちらもJIS上は塩浴軟窒化(HNC-S)です。違いは商標と提供企業で、原理は同じものです。

Q. タフトライドをした部品は錆びませんか?

A. 炭素鋼では亜鉛めっき程度の防錆効果が得られます。屋外や水がかかる環境では別途対策が必要です。

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